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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「言っとくが、お飾りじゃ無ぇ本物の護衛だぞ?ローゼルは領主様の一人娘で、肖像画が売られる程のご面相だ。ガキの頃から、色んな意味で手ぇ出す奴は後を絶たねえ。付いて歩けりゃ誰でも良いって訳じゃ無え…分かるか?」
「…うん」
スグリ姫も姫ですから、美貌という点以外では、思い当たる節が有りました。
ここに来る際も、道中には護衛もお付きもおりました。屋敷の警備が元々厳重すぎる程厳重なので、着いた時点でバンシル以外は全員帰らされたのですが。

「ビスカスは普段あんなんだが、領主様にとってもローゼルにとっても、今んとこ唯一お眼鏡に叶った奴なんだよ。本気のあいつぁクッソ強ぇぞ。今回ぁ相手が良く知ってる奴な上に女だったから、勝手が違ったんだろうな。知らねぇ奴なら今頃はあいつは無傷で相手は半殺しだ」
それも殺したら事情を吐かせられないからで、必要が無ければ半殺し以上の目に遭っていると言う事は、姫には告げられませんでした。

「…って訳だから、あいつが怪我したなぁ、あいつの選択の結果だ。お前が気に病む事じゃ無ぇよ」
「…そう、なの…でも」
姫はビスカスに言われたことを思い出して、サクナに訴えました。
「でも、行かなきゃ!だって、ビスカスさん、天国見たって!」
「あ?天国?」
「私、うっかりぎゅってしちゃって、息が苦しいって…それで、天国見たってっ…!」
身振り手振りを交えながら、懸命にビスカスの状態を気遣う姫の言葉を聞いて、サクナは決して心配ではない感情で、目元を険しくさせました。

「……そりゃあ……見過ごせねぇな…」
「ね?だから、行かないとっ!」
「お前は、もう大丈夫なのか?」
性急に立ち上がろうとする姫の頬を手の甲で撫で、短くなった髪を耳に掛けてやりながら、サクナは姫に聞きました。

「大丈夫よ!行かない方が、大丈夫じゃないわ。心配ですもの」
「…よし。仕方ねぇ、一緒に行くか」
「ええ!……ぅえっ?!」
サクナは姫を横抱きにして、立ち上がりました。
「やっ!ねえ!下ろしてっ!」
「歩けんのか?」
「歩ける!歩けるから!」
下ろされた姫は二、三歩足を進めましたが、少しだけ足元が覚束なく感じました。

「ごめんなさい…手は、借りて良い?」
「お望みの物は何でも捧げますよ、勇敢な奥様」
サクナは姫に腕を差し出して、姫はそれに掴まりました。そして二人は、ビスカスの居る場所に向かいました。
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