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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第8章 ビスカスくんの一番長い日
「…うーん…」
居ねーね。毒を食らわば皿まででその辺を探してみたが、ウサギゃあ全然見当たらねーわ。
まさか旦那とどっかにしけ込んでんじゃねーだろーね?と思ったが、そりゃ無ぇな。サクナ様ぁさっき広間でおっさん達と楽しくお話しなすってたからな。
あのウサギ姫ぁ、どこの穴に隠れやがってんですかねー。

「…もう、端っこかよ…」
廊下の端までぶらぶら歩いてって、踵を返したら。
「…っ!?」
急に、背中が総毛立った。

この廊下の向こうは、特別な仕事場だ。今日はこの建物での仕事は全部休みだが、休みであっても無くても、この先は客の入れる場所じゃ無え。
俺もお嬢様も、仕事の有る日ーー用が有ると認められている日は入れるが、それ以外の日ぁこの家の誰かと一緒じゃ無ぇと、この向こう側にゃあ入れ無え。
その事を知っている人間は、限られている。大抵の奴は、単純に、「この向こうには行けない」。理由もクソも無ぇ、行けねぇだけだ。行けねぇ事を不思議に思う事も無え。

婚礼はまだだが、サクナ様とクロウが認めてんだから、スグリ様ぁもうこの家の人間だ。
スグリ様ぁ向こうに入れるだろうが、普通に考えりゃ、こんな所に入る訳ぁ無え。入る理由が無ぇもんな。

ここに居るなんざ、有り得無え。
頭では、そう思う。
だが、背中が、ゾワゾワする。

「…仕っ方ねえな…」
絨毯の色が変わる境目まで歩くと、ほんの少し、抵抗を感じた。
「…おい。気が進まねぇのは、お互い様だぞ」
呟いてみたが、状況は同じだった。ここは無理矢理越えられねーから、無理に突っ込むと、二度と行けねえ。
こりゃあ、話し合いが必要だぁね。
大抵のもんにゃあ、話しゃあ通じるからねー。他の奴は知らねーが、俺が話せば、大抵折れる。
こういう時ぁ、嘘は言わねぇのが肝腎だ。自分が本当に本当だと確信している事だけ話す。これが、コツですぜ。

「俺ぁこの家の奥様に目を配ってやってくれってご当主様に頼まれて、行方知れずの奥様を探してくれって家令様に頼まれたんだよ。だから」
嘘じゃ無え。ちょいと多目に盛った気もするが、それはそれ。方便だ。
後は、ハッタリ。

「だから、俺をそっちに入れとけや」
お。
抵抗が、薄くなった。話し合いは成功らしいねー。
境目を跨ぐと、すんなり入れた。

「…ゃっ…!」

向こう側に入れた途端、塞がっていた耳が開いた様に、奥の物音が聞こえて来た。
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