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つらい恋なんか投げ捨ててやる
第1章 ワインなんて独りで飲むものじゃない
「妻からだった。下の娘が熱を出したらしい。申し訳ないが、今日は君のところへ行けなくなってしまった」
「それは大変。わたしはいいから、早く帰ってあげて」

彼は口の中でゴメンとかすまないとかぶつぶつ言いながら、そそくさとわたしの前から消えてしまった。その背中を見送りながら、もし振り返ってくれたら振ろうと思って肩まで上げた手が、行き場をなくして宙をさまよう。

買ったワインどうしよう。
せっかくふたりで飲もうと思っていたのに。
ひとりで飲む気しないわ。
それに、ワインに合うオードブルも作ろうと思って材料も用意してあったのに。

あれほど楽しみにしていた時間が、「申し訳ない」の一言であっけなく消えてしまった。立ち尽くしたまま肩を震わすわたしを寂しさと惨めな屈辱感が打ちのめす。
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