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月夜の迷子たち
第4章 月下の迷子の手
その日から、一日中鍵をかけて、それこそ寝食忘れて描いた。
二日たったのか三日たったのか。
オフィーリアの方も肖像画の方も、予定よりかなり早く進んでいた。

食事は時々思い出したように冷蔵庫にあったりんごやバナナを食べた。
すさまじい集中力が途切れると倒れるように眠り、起きたらすぐに筆を握る。
何かに追われているように描き続けた。

突然、持っていた筆が取り上げられた。
見上げると征哉が立っていた。
いつになく真剣な顔をしていた。

「あ・・・・・」
「紗奈ちゃん、さすがにやり過ぎ」

征哉が紗奈を抱えてソファに寝かせた。

征哉は紗奈の顎を掴んで顔の左右を確認した後、目の下まぶたをわずかに下げた。
ため息をついて紗奈の身体に毛布をかける。

「何があったかはだいたいレイアちゃんに聞いたけど、ほんと、君って人は真面目というか繊細というか・・・・・・」

紗奈は集中が途切れた途端、めまいを感じ苦しくなって目を閉じた。

「君に締め出されて、僕の可愛い弟は見事に打ちひしがれているよ。かわいそうで見てられない」

紗奈は弱々しく目を開いた。

「ごめんさない・・・・。早く完成させたくて・・・・・」
「だからって不眠不休でやって倒れたらどうするんだ。こちらとしてはそんなに急ぐ必要ない。君が早く終わらせたいだけだろう?祐哉がどんな気持ちで過ごしてると思う?」


『君が俺のことを想ってる以上に・・・・何倍も強く俺が君を想ってるってこと覚えておいて』

祐哉の言葉が何度も頭に浮かんでは無理やり消した。
祐哉への想いを振り切るように一心不乱に描いた。

まったく・・・・と呟いて紗奈の体に毛布をかけた。

征哉はオフィーリアを指して言った。

「今の祐哉も、彼女みたいな顔してる」

恋人に裏切られて川へ身を投じたオフィーリア。
その姿が祐哉の姿とシンクロして、紗奈の胸がチクリと痛む。

「無菌室状態にいた君にとって、瑠花の毒は強烈だったと察するよ。あの子は・・・・まあ、馬鹿な親のせいもあって、小さい頃からずっと祐哉の嫁になるって公言してきてて。祐哉は遠まわしに拒否してきてたけど・・・いずれにせよ彼女のことはこちらの責任であって、君が気に病むことじゃない」

紗奈は目をぎゅ・・・と瞑って違うんです、と首を振った。

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