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私の欠けているところ
第8章 泥沼のような地獄だった


時を攻めるつもりも
なかった

…ただ…

ただ俺は
今のこの関係が
悔しくて

矢部さんとか色んな人が
時のことを
噂することにもイラついて

噂されるようなことをする
時にも
腹が立って

けど時が
そんなことをする理由を
俺はひとつも知らなくて…

くそ…

裸のまま小さくなってる時を見て
俺まで
泣いてしまいそうに
なっていた


「時…ごめん…」


俺は
顔を手で隠しながら
涙を流す時を
抱きしめ


「冷たくなってる」


冷たくなってしまった時を
ベットに寝かせて
布団をかけてやった


「ごめん…
もう…帰るから…」


えっ…嘘だろ

嫌だよ

帰るなんて言うなよ


時はまだ怯えてるのか
表情は硬く
俺から目をそらしたまま
唇を噛んだ


「時は悪くないよ
俺が悪かったんだ

ほんとにごめん
怒ってなんかないんだ

ほんとに

だから時っ…

嫌だ


帰るなんて…言うなよ…」


泣いてしまいそうな顔を
見られたくなくて
布団ごと時を抱きしめると

時は

俺の腕の中で
呟いたんだ



「わかってるの…

私が…悪いの

だから」


いや、違う
俺が悪かった
絶対
時を帰したくない

だから俺は
言ってしまったんだ


「嫌だ

絶対に帰さない


俺は

時が好きなんだ」


好きだという
その言葉が
時に
どう伝わったかは
分からないけど…


「……」





「もう帰るなよ、時…

あんな奴と別れて

ずっと
ここに居てくれよ…」




何人もの男と寝る時は
セックス依存症かもしれない


それなら

俺が
依存の相手になってやればいい


矢部さんの話を聞いた時
俺は正直
少し時と距離を置こうとしていた


けど
時が「帰る」と言ったその時

俺は時に
絶対に帰って欲しくない
と思ったんだ


アイツのとこになんて
帰したくなかった


そのまま時を帰らせたら


もう二度と

時は
俺とは会ってくれてないような

そんな気がしていたんだ

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