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私の欠けているところ
第10章 逃げ回る時を追いかけたんだけど

もう

これが最後のチャンスだ


今を逃したら

俺はもう

時を
救うことも
抱きしめることも
できないだろう


そう思った俺は

時に
帰れと言われたにもかかわらず
持っている荷物を
床に置き

ドアに鍵をしめて
チェーンをかけたんだ


『ガチャ…』


今でも忘れない

その音に反応した時の顔を


顔を覆っていた手を下げ
驚いた顔で
時は俺を見つめたんだ


そして


時は
涙で濡れた両手で
俺の胸を押した

その力は強く
こんな力が
時に残ってたのか…
と、驚くほどだった


「時、話があるんだ」


俺はその両腕を握り
半ば無理矢理
時を抱きしめた


「聞きたくないっ」


時は
俺の腕の中で
もがいていた

聞きたくない

帰って

知らない…


そんな言葉を
繰り返しながら
俺から逃れようとしていたけど
長くは続かず


時は
力尽きて脱力すると
その場にしゃがみ込みそうになった



「大丈夫か?」


酸欠にでもなったのか
フラフラしている時を抱き上げ
俺は靴を脱いで
部屋の奥へと時を運んだ


そして
ゆっくりと
ベットに時を下ろすと

時は頭を抑えて寝転がり
俺に背を向けてたまま
身体を丸くした



そのとき
俺は思ったんだ


時が話さないなら
俺が話そう


時に伝えたたかったこと
全部伝えよう


それでダメたら


もう



あきらめよう


と。




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