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姫巫女さまの夜伽噺
第7章 癇癪鼠

「いや…好きじゃない…」



(好きじゃない、こんな事…でも…)



志摩の顔がよぎる。
人間の世界にいつか戻れるときまで我慢しろと。
側にいると約束してくれた
あの紳士で意地悪な眼差しを思い出す。


「よく言えるなそんな事。
こんなに善がっているのに…!」


「でも…。
私は今は姫巫女だから…。
今は姫巫女として生きるって、決めたんだもん…。
志摩が居てくれるもん…」


あの嫌な思い出を忘れたいがために
自分の価値なんかないと死のうとしたこの山で。


命を助けられ、新たな命の役割をもらったのだ。


こんなはずじゃなかった。


人間を捨てるつもりではなかったのに。


だけど、薄々、どこかで伊良は気づいていた。


志摩の深い後悔と、彼の無骨な愛情に
だんだんとほだされていく自分の気持ちに。


「そうだよ、よく分かってるじゃないか。
そしたら姫巫女らしくしなきゃ」


たくさん志摩に犯された。
あの感覚を体が忘れることはない。


そう、志摩が故意に仕向けていたとしても
伊良はそれはもうどうでもよかった。


自分を必要としてくれて
そして、役割ももらった。


それが、伊良にとって
紛れもない事実で
信実で
受け入れるべき現実だった。


だから
この事実も受け入れようと思ったのだ。


「志摩が…生かしてくれたから…。
播磨、あなたのいうことくらい、聞いてあげるわ」


「随分とあの狐にほの字のようだな、人間。
衝立の向こうに惚れた男がいるというのを忘れたか。
その男は、今、君に手出しはできない。
僕が、君にどんなことをしてもだ。
惚れた男の前で寝取られる気分はどうだ、人間?」
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