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姫巫女さまの夜伽噺
第10章 人間の世界
伊良が穂高の部屋を後にしたのは
太陽が真上を過ぎたあたりだった。


何百年ぶりかに、人間の姿で眠りについたと
穂高は伊良を抱きしめた。


人間を憎み、そして、肉体の脆弱さに嘆き
恐怖で人の姿の時は眠れなかった穂高。


彼の心が少しでも癒えたのなら
それは伊良にとって、とても嬉しいことだった。


気分良く廊下を歩いていると
そこで志摩とばったり会った。


「あれ、志摩、どうしたの?」


志摩は伊良を見つけると、ハッと驚いた顔をした。
志摩がそういった反応をするのが珍しく
伊良は首をかしげた。


「いや、どうもしないけど…。
お前こそどうした?」


「ちょっと穂高に呼ばれて…」


そう言ってまじまじと志摩を見る。
穂高から聞いた、志摩の深い過去を思い出し
それでも人間が愛おしいと言ってくれた
心優しい彼に胸が締め付けられるような思いがした。


「そうか。それよりちょっとこっち来い」


志摩はくるりと背を向けると、スタスタと歩き出す。
いつもだっただグイグイ手を引っ張るか
抱きしめて連行されるかのどちらかだったので
その志摩にも伊良は少し驚いた。


(あれかな、満月でこの山の調整してるから
なんだかいつもと雰囲気が違うのかな…?)


あまり深く考えるのはやめ
伊良は志摩の後に続いた。
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