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女社長 飯谷菜緒子
第3章 婚約
「社長になるからには会社を守っていかなくてはなりません」

寿子の表情が少し和らいだ。

「そうするつもりです」

菜緒子は厳しい表情を崩さなかった。表情が和らいだのを見て寿子が自分を認めてくれたとも思ったが、ここで気を抜いてはいけない。気を抜いて隙を見せれば一気にやられるかも知れない。

「女子が会社を守っていくということは・・綺麗事ばかりでは済まないのですよ。時に女にしかできないこともせねばなりません。あなたにその覚悟がおありか?」

寿子は一瞬酸いも甘いも知り尽くした女の顔を見せた。しかしその表情は自分が居間側を守ってきたのだという自信と気品がみなぎっていた。

寿子の言っているのは枕営業や女の武器を使うということだろう。寿子も居間側を守るためにいろいろなことをしてきたのだろう。

大人びて威風堂々としていても菜緒子はまだ中学生の少女に過ぎない。菜緒子が果たしてどんな顔を見せるのか寿子は少し楽しみにして反応を見る。

「私の身ひとつで会社が守れるような局面とあれば、こんな体は喜んで差し出しましょう」

寿子の楽しみを崩すように菜緒子は凛として顔色ひとつ変えずに答えてみせた。元々はこの縁談だっていつか翔也と結ばれるための枕営業みたいなものだから、菜緒子にとって枕営業の回数が増えたところで大したことではなかった。

だがその一方で、自分は大女優の器かも知れないが、アダルトビデオや風俗の大女優だと少し自分を卑下する心もある。

寿子は、少女としての菜緒子の顔が見てみたいという期待を裏切られて残念に思う一方でこんな歳からこのような覚悟ができている菜緒子が恐ろしくなった。

自分もいろいろなことをしてきたが、目の前にいるこの少女は自分を越えていると思った。
そう思うと少し意地悪をしてやりたくなったが、それも菜緒子に先を越された。

「ただ、私がどのようなことをしようとも真次さんには絶対に秘密に致します」

真次のことを話した時に菜緒子は初めて寿子に悲しげな表情を見せた。

「例えどのようなことになろうと真次さんを裏切るつもりは微塵もございません。でも、真次さんが知ればお辛い思いをさせてしまいます。真次さんを悲しませるようなことだけは絶対に避けてみせます」

枕営業とかをして他の男に抱かれれば真次を裏切ることになると菜緒子を責めてみようと思ったが、完全に先を越された。
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