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女社長 飯谷菜緒子
第4章 初体験
景嗣は授業以外の時間は殆どを理科室で過ごして研究や実験をしているような男だった。

率先して生徒と仲良くなろうとするような人間ではなかったが、寄ってくる者は拒まずみたいなところがあって、菜緒子と志乃は彼の根城である理科室に歓迎された。

まあ、もっともアンドロイドみたいなこの男に寄ってくるのは菜緒子と志乃ぐらいのものであるが・・

理科室に行くと景嗣はフラスコを使ってコーヒーを煎れてくれる。最初はえ~っと思ったが、フラスコで煎れたコーヒーを志乃は喜んで飲むし、段々と乙なものだと思えるようになっていた。

理科室では景嗣は色々な研究のことを嬉々として語ってくれるし、時には実際に実験をして見せてくれることもあった。

志乃と違って理系女というワケでもない菜緒子も次第に科学というものが好きになっていた。

人は裏切ったり罠にハメたりということをするものだ。そのせいで菜緒子は翔也と透真という大切な存在をふたりも失うことになった。時に醜く変貌する心で動いている人間には法則などというものはなく、どんな行動をしでかしてしまうかも分からない。

しかし、科学は違う。正しい手順さえすれば決して裏切ることはなく法則どおりの答えを導き出してくれる。警察の科捜研がそうであるように、時には人間が醜い心であれこれ画策しようとも科学にはそれを打ち砕く力さえある。

そんなことを思って科学に惹かれる菜緒子は化学者たる景嗣にも心惹かれるようになっていた。しかも景嗣は翔也に似ているし・・。
でも、親友の志乃は裏切れないから景嗣への想いは自分の胸にだけしまっておこうと誓っていた。

「そんなの政略結婚じゃないか。君はそれでいいのか、君の心は・・?その男に少しでも愛情を感じているのか?」

ある時、菜緒子が16歳になったら居間側と結婚するという話題になったら、景嗣はいつになく感情を剥き出しにして大きな声を出した。いつもアンドロイドみたいな景嗣のこんなに人間らしい姿は初めて見た。

「ありがとう先生。でも、決めたことなんだ。あたしにはどんな手を使ってでもやるべきことがあるんだ」

菜緒子はきっぱりと言い放った。その様子を見て志乃はきょとんとしてしまった。居間側重工という大企業の御曹子と結婚して飯谷工業の社長になる。

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