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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
潤は、首を小さく横に振った。怖いのは藤田そのものではない。
このまま腹を切り裂かれるようにして、内側からすべての欲望を引きずり出されてしまうことが怖い。本当の自分を――無知なふりをしながらいやらしい想像にまみれた女を、誰かに知られるのが怖い。だが、そんな自分を見つけてほしいとも思う。
相反する感情が交錯し、昨夜誠二郎に対して感じたものとはまったく異なる恐怖と快感がうねりとなって襲ってくる。
「……して……こわして……っ」
ほとんど声にならない声で潤は懇願した。藤田がその精神の奥底にもつ激しさで、大きく波打つこの心を貫いて静めてほしい。
耳元で、悩ましげな呻き声がした。直後、ふたたび首に噛みつくような口づけを落とされ、ニットとインナーが強引にめくり上げられた。