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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 携帯を手放し、書を新聞紙の上にさっと置いた潤は、また新しい半紙を用意した。最初に書いた『宿命潛悟』を藤田の教えを反芻しながらもう一度書いてみようと思った。

「今だけ、自由」

 潤は呟き、筆を取った。
 この白い紙は、なにをしても誰にも咎められない、誰にも知られない、自分だけの場所。小さな場所、だがそれは無限に広がる想いの集結点。そう思うと、根拠のない自信がみなぎってくる。

 筆に墨をたっぷりと含ませる。腕を構えると、紙背まで気を貫くような気持ちで、潤は一画目の点を打った。その勢いを止めずに、二画目、三画目、強い心のまま筆を押し込む。
 書きながら潤は思った。もっと激しく書きたい。もっと大きく書きたい。昔のように、太い筆で、縦長の紙に堂々と……。

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