この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
滲む墨痕
第4章 一日千秋
全身が総毛立つ。胸の前で交差させた両腕は大きな手によって容赦なく解かれ、頭の上に挙げさせられた手首を畳に縫いつけられる。
誠二郎の顔が近づいた。失望と怒りが共存したような不安定な笑みを浮かべている。
「押入れの中にうまく溶け込ませたつもりだろうけど、見覚えのないバッグがあったら普通おかしいと思うだろ」
「わ、私の持ち物なんて、今まで気にしたことなかったじゃない……」
「ああ、そうだよ、今まではね。全面的に信頼していたからさ」
「……っ」
信頼――その言葉が息を吹きかければ飛ぶように薄く感じるのは、それを信じられるほどの関係性を保てなくなってしまったからなのだろうか。潤は違和感を禁じ得なかった。