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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨

「あったー」

 ちょうどそのとき戻ってきた藤田が、不思議そうに見下ろしてくる。

「どうかしましたか」
「あ、髪を留めるものを探していました。落ちてきてしまうから、邪魔で……」

 急いでまとめた髪を後ろで留める。少し雑になり出てしまった後れ毛を指で耳にかけると、それを見ていた藤田が納得したように笑った。

「それだけ綺麗な髪だとかえって大変なんですね。するすると落ちてくる」
「え……いえ、そんな」

 なにか意図があって褒められたわけでもないのに、夫以外の異性から久しぶりに貰う言葉になにを返せばいいのかわからなかった。
 耳に指を置いたまま黙る潤をよそに、藤田は笑みを崩さず机のそばに歩み寄り腰を下ろす。ほんの少し肩すかしを食らった気分になりながらあとを追い、もとの位置に正座するとさっそくレッスンが始まった。

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