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滲む墨痕
第4章 一日千秋

 瞬間、誠二郎が眉間に刻まれた皺を深くした。瞳には不穏な色が差し、その表情には殺気のようなものが漂う。

「そんなのは当然だろう。君はここの嫁なんだから」

 強い口調で一蹴された。手首を押さえつけてくる力がぐっと重くなる。

「潤は野島家の一員だよな。病気の親父に尽くすのは普通のことだろ。そこまで想定して俺についてきたんじゃないのか」

 さらに続く理屈責めに追い詰められると、呼吸が乱れ喉が渇く。家族だから――その主張は、潤の心に深い影を落とす。

「なんだよその顔……なにがそんなに不満なんだ。こんなに自由にさせているのに」

 正論によって小さな反論の芽を摘み取られてしまえば、あとにはなにも残らない。潤は押し黙るしかなかった。

「なんでこんなことに……」

 気だるげに呟いた誠二郎が、ふと顔を上げて首を横にひねり、こたつテーブルの上にあるなにかに目を留めた。

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