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滲む墨痕
第4章 一日千秋

「違う」

 わずかな苛立ちとともに呟き、誠二郎はワイシャツを脱ぎ捨てる。インナーを頭から抜いて美代子の前に放ると、その潤んだ瞳を見据えた。

「今でも野島屋に身を捧げるあなたをだ」

 美代子の唇はかすかに震え、彼女はそれを隠すためか口を固く閉ざす。細かくまばたきを繰り返し、ハンカチを握りしめる。あきらかにたじろぐ美代子に追い討ちをかけるため、誠二郎は彼女に背を向けて座りなおした。

「野島屋次期社長の身体を維持するのもあなたの仕事なんだろう。たいした役だ」

 返事はない。代わりに小さな吐息が聞こえ、次の瞬間にぬるい布の感覚が背中に押しつけられた。右の肩甲骨あたりにそれが這い上がり、遠慮がちに肌をこする。
 綺麗なハンカチが汗で汚れる。タオルくらい出してやればよかっただろうか。そんなふうに考えた直後、左の肩甲骨になにかが触れた。指だ。そう理解するより前に、手のひらが押し当てられた。

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