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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨

 半紙の右上部の一点を目指して筆を入れる。『初』の一画目。斜めに入れ、少しだけ左に抉るように押さえる。思い描いた雨露のような形になった。
 二画目は最後の払いに気をつけて、三画目は真っ直ぐな縦線。筆遣いはかろうじて身体が覚えているようだが、こわごわ運んだせいか線が歪み、墨が少し滲んでしまった。
 一筆入魂、と心の中で気合を入れ、丁寧に、しかし躊躇せずに書いていった。『志』は心の部分が苦手だったな、『貫』は縦のバランスを考えながら横線を引くのに苦労したな、『徹』は画数の多さのわりに得意だったな、などと思い出しながら。

「……できた。初志貫徹」

 自身に言い聞かせるように呟き、潤は筆を置いて深く息を吐き出した。振り返ってみると、藤田は部屋の隅であぐらをかいて目を閉じていた。まるで瞑想でもしているようだ。

「先生……」

 ひかえめに呼んでみたが、聞こえなかったのか藤田はまったく動かない。もしかしたら寝ているのかもしれない。潤は立ち上がり、静かに畳を踏みしめて藤田のもとへ歩み寄った。

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