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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨

 もし、あの二人が避妊をしていなかったら――。

「うっ……」

 不意に吐き気を覚えた潤は、両腕で腹部を抱きながら道端にしゃがみ込んだ。
 ひとけのない通りは静かで、自身の咳き込む音と荒い息だけが響く。嘔吐には至らなかったが、胸が焼けただれたような不快感が残っている。
 何度も深呼吸をして息を整えると、滲む涙をひとぬぐいしてため息をついた。

 責める資格はないのかもしれない。ほかに目を向けたのは自分も同じだ。そう思うと、おのずと藤田の顔が浮かんだ。
 すると、それまで胸の奥で滞っていたなにかが、すさまじい濁流となって溢れ出るのを感じた。

――先生……昭俊さん……。

 心の中で呼びかければ、ついに涙は堰を切ったように流れはじめた。

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