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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨

 伏し目がちにそう言ったあと、彼は気を取り直したように真剣な目をよこし、説明を再開した。

「あなたを探しましたが、見つからず……」

 だが途中で黙り込んでしまった。
 その視線は、なにかに吸い寄せられるかのように右頬のあたりに注がれている。次いで、おそるおそる伸びてきた彼の指がそこに触れた。

「あ、あの……」

 戸惑いを声に出せば、その瞳はようやくこちらに焦点を合わせた。彼は哀しげに顔を歪ませ、ふたたび重そうな口をひらく。

「足跡が、残っていました。一軒の平屋に続く、いくつもの足跡が。一人なのか、複数人なのか。歩いたような足跡や、走ったような足跡、ばらばらに重なって……。とにかくそれを辿って平屋に向かいました」

 その言葉は、潤にあの淫景を思い出させた。

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