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滲む墨痕
第5章 尤雲殢雨

 首をすくめ、こそばゆさに耐える。息のかかりそうな距離で向き合い、洗うという行為以上のことをされない静かな時間が過ぎてゆく。
 脇、腰、腹、と手抜かりなく順番に洗われ、下腹部に差しかかったとき、藤田が手を止めて視線を上げた。なにかを問うような眼差しに、潤は無言を返す。
 太ももの間にも墨をつけられた。その奥の茂みにも……。そう正直に伝えるべきだろうか。逡巡しているうちに、無情な筆がそこを舐める感覚が甦り、誠二郎の顔が浮かんだ。おぞましさに吐息が震える。

 異変に気づいた藤田が訝しげに眉を寄せた。やがて、その目には憤りの色が射した。

「いったい、どこまで……」

 かすかに揺れた声は煮え立つ心情を伝えてくる。背中を支える彼の手は熱く、素肌を溶かしてしまいそうだ。

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