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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪

 誠二郎は眉間に皺を寄せてなにかを言いかけたが、それをやめて片側の口角だけをつり上げ、ふっと鼻で笑った。

「それで発破をかけたつもりか。親父の性格を受け継いだのは、死んだ兄貴のほうだと?」
「資質と性格の違いがわからないようね。言葉を知らないから、言葉の選び方を間違えるのよ」
「そんな些細なことを気にするのは母さんだけさ。結局、親父に似ている兄貴のほうが野島屋主人にふさわしいってことだろう」
「いいえ。性格だけでいえば、晃一よりあなたのほうにあの人らしさが色濃く表れている。だからあなたは今ここにいる」
「……なにをわけのわからないことを」

 冷酷さを増した誠二郎の表情と声、それに対峙する女将から放たれる不穏な空気。潤は自分がどこにいるのかわからなくなり、その場に立っているのがやっとだった。
 しばらく続けられた沈黙の睨み合いは、誠二郎のわざとらしい大きなため息に破られた。

「もういい。俺一人で挨拶しにいく」

 彼は女将に向かってそう言い捨てると、潤にはわずかに失望を示す眼差しを投げてから背を向け、宴会場に戻っていった。

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