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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
鬼塚は今すぐ死にそうなほど蒼白な貌をした郁未を見下ろした。
ふっと笑いを漏らし、郁未の肩を抱く。
「…お前は馬鹿だな…」
むっとしたように郁未が瞼を開き、鬼塚を抗議するかのように見上げる。
「馬鹿って…!」

その、まだ桜色をした可憐な唇に唇を重ねる。
大きな愛らしい瞳が信じられないように見開かれる。
笑いを含んだ柔らかな瞳が郁未を見つめていた。
「…眼ぐらい閉じろ。馬鹿…」
郁未は素直に瞼を閉じた。
鬼塚は再び郁未の唇に、愛おしさを込めたくちづけを繰り返し、その華奢な身体を一度だけ強く抱きしめると、耳元で優しく囁いた。
「気持ち悪いなんて思うわけないだろう…」

…そして、
「…ありがとう、郁未」
と告げると、身体を離した。
「先にホールに行っている。遅れるなよ」
いつもの口調で釘を刺すと、鬼塚は教室を後にした。

郁未はへたへたと床に座り込み、唇にまだ残る鬼塚の温もりを確かめるように指先で触れた。
「…鬼塚…くん…」
そうして、いつものようにわあわあと泣き崩れたのだった。



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