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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
数日後、出かけようとする鬼塚を美鈴はやや眩しげに見上げた。
「あんた…。何かええことがあったの?
…なんだか少し嬉しそうにしとるわ」

鬼塚の脳裏に、偶然再会した小春の面影が浮かんだ。
「…別に…何もない…」
素っ気なくに答え、素足に下駄をつっかけて玄関を出ようとする鬼塚の背中に甘い白粉の薫りがふわりと追いかけてきた。
美鈴のほっそりした手が、強く背中を掴む。
「絶対、帰って来てね…。どこかに行ってしもたらいやよ?」
鬼塚はそれには答えず引き戸を開け、外に出た。
美鈴の寂しげな貌は見て見ぬふりをした。


…美鈴は優しい女だ。
擦れてなくて一途で純真だ…。

最近、鬼塚は少し後悔していた。

…この女は、適当にあしらっていいような女ではなかった…。

美鈴の為に、俺は何もしてやれない…。

…こんな…生きる目的も甲斐も…何もかも見失った…敗残兵の俺には…。

鬼塚は眉を寄せると、埃っぽい長屋の小径を足早に歩き始めた。


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