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女鑑~おんなかがみ~
第4章 憧れ
孝秀兄さまは、操子にとってあこがれの存在だった。学業も運動も一番で、しかも誰に対しても優しかった。
兄のいる友達はみな、「兄さんに泣かされた」などと言っていたが、孝秀兄さまは、そのようなことをしたことが一度もなかった。

学校から帰るといつも、操子に、学校で習ったことを教えてくれた。だから、操子は三つのときから、ひらがなも九九も兄さまから習っていたのだ。
兄さまはいつもよく本を読んでおり、難しい言葉をたくさん知っていた。外国の物語、遠い昔の物語、冒険の物語、なんでも操子に教えてくれた。

そしていつも素直で真面目で、お父さまやお母さまの言いつけにも背いたことがなかった。
家業の材木問屋にも関心を持ち、店の中を見ながら、職人たちに
「これは何の木ですか」
「この木はどのような柱に使いますか」と質問をし、そのたびに大学ノートに書きこんで勉強していた。

「将来の目標は、祖父と父の営む材木問屋を継ぎ、近代的に経営し、日本の素晴らしい材木を世界中に広めることです」
と尋常小学校の六年で綴り方に書き、学校の代表に選ばれたときは、妹としても誇らしくてたまらなかった。

だが、そんな兄さまが少し変わり始めたのは、中学校に入った次の年くらいからだった。その年に、新しい女中さんが入ってきた。
操子は、人見知りをする質なので、家と店を兼ねて十人ほどいる女中さんと親しく話すことはほとんどなかったが、孝秀兄さまは、女中さんたちとも親しく話していた。。
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