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女鑑~おんなかがみ~
第2章 妹分
むらさき屋の遊女、夕顔はここに売られてきて四年になる。年は二十歳だ。特に売れようとしたわけでもこの稼業が好きなわけでもないが、いつの間にか稼ぎ頭になっていた。
身請けという話もこれまでにいくつかあったが、のらりくらりとかわしてきた。

そんなとき、女将から、今度売られてくる娘を妹分にしてやってくれと頼まれた。これも初めてではない。十八歳を過ぎたころにも売られてきたばかりの娘を妹分ということにして、洗濯や荷物持ちを手伝わせていたが、ようやく水揚げをして一人前になったと思ったら、大店の旦那に身請けされて去っていった。なんだかもやもやした記憶が残る。

「いいですよ。どんな子ですかね。」
「あんたと同郷だよ。賢そうなお嬢さんでね。傾いた材木問屋を助けるために、私が身を売りますと、自分から来たらしいよ。もとはいいところの娘だったんだろうかね。」
「へえ、自分からねえ」
材木問屋という言葉が一瞬引っかかった。
「挨拶もこう、きちっとして、見たところ、本当にいいとこの娘だよ。多分、正真正銘の生娘なんだろうね。あんないいところの娘が、こんなところで、身を売るとは世も末だろうね。」
女将が長々と話すのに、夕顔は少し閉口する。
いいところの娘が、自分から進んで・・・・奇特な娘なのか、実は阿呆なのかと思う。

「誰かが来たときとは大違いだね。夕顔や」
女将の皮肉が癇に障った。
「それはすみませんでしたね。貧乏な小作の娘の分際で、女郎になるのは嫌じゃと泣きながら参りまして。その節はご迷惑を」
「本当にとんだ災難だと思ったよ。挙句のあてに、夫婦の約束をした人がいるだの、騙されただのと、夢物語を信じて、泣き暮らしてね」
当時、十六だった夕顔を激しく折檻した女将だが、今はすっかり笑い話にして、何かあるたびに酒の肴にする。夕顔にとっては思い出したくない過去である。

「女将さん、後生ですから、その話はもうやめてくださいな」
夕顔は冗談めかして懇願した。
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