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女鑑~おんなかがみ~
第9章 虚無
マツはため息をついた。
「お嬢さま……。
お母さまから何もお聞きではないのなら、私などが差し出がましくご説明するべきではありませんのでしょうが……。
でも、お嫁入りをされたら、祝言のあとは一つのお布団に入られるということくらいはご存知ですよね。
まあ、それと同じことを、遊女はお客とするんです。
小説やなんかの本を読んでいるとだんだんと分かってくるものなのですがね。
私なども、小学校までしか出ておりませんが、女中仲間でルビ付きの小説を回し読みしたり、若い頃はよくしたものですが…」

操子は顔が赤くなった。
女学校では、小説は俗悪なのでなるべく読むなと言われていた。それでも大半の生徒は単行本や雑誌の連載小説などの話題に興じていたが、操子は俗悪なものを読んで俗悪に染まっては大変だと思い、そのようなものは遠ざけてきたのだ。

女学校で、級友たちがひそひそと交わしていた会話を思い出す。
「先月に嫁いだお姉さまが内緒で教えてくれたのだけれど、お嫁入りした日に初めてのときは、とても恥ずかしくて痛いんですって。」
「まあ、怖いわ。でも赤ちゃんを産むためには我慢しなければいけないのですって」
「いやだわね。このまま、ずっと女学生でいたいわ。」
「愛する人とだったら平気よ。だから私は恋愛結婚をすると決めているの」
「まあ素敵、進歩的だわ」

ツボネと呼ばれる級長の操子が近づくとぴたりと止まる噂話。
このような会話を聞くと自分も汚れるような気がして遠ざけてきた。
たまたま開いた本に好きだとか恋だとかいう言葉があると、怖いもののようにして閉じた。

お兄さまが、結婚したいと望んだ女の人は今頃どうしているのだろうか。
「お嫁入りのときにするのと同じことをお客と……」

罪悪感と同時に、自分がスエさんになったら、というようなことが頭をよぎった。

昔に見た夢を思い出す。

身体の奥のほうが熱くて苦しい。
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