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姦譎の華
第1章 1



 会社に残って良かった。心底そう思った。

 ふくらはぎから続く脚線は、膝頭で収束するとみせかけて、浅はかな発想を嘲るように再びせり出していた。濃藍のスカートが教えているのは婉やかな輪郭だけ、それ以上の不届きな視線は手厳しくシャットアウトしている。丈は膝にかかり、とびきりのタイトでもない。形としては大人しい部類に入るだろう。

 しかし裾まで山型にギャザーが寄せられたデザインは、並の女ならビジネスの場では奢侈となりそうなものを、ひたすらに長い脚が余計な心配をするなと一蹴してくる。

 まるで、天幕のかかった祭塔が、跪いた前に聳えているかのようだった。
 さながら俺は、苦難の果てに聖地へ辿り着いた巡礼者だ──

 本気でそんな感慨にとらわれつつ、稲田は震える両手を伸ばしていった。

 交互に差し出されるこの脚が自席近くを通り過ぎる際、スリットの内側が垣間見えただけでも、人知れず心臓と股間を逸らせてきた。そんな自分が、滅多な者では立ち入ることのできない禁忌の場所へ、まさに踏み込もうとしているのである。

 はたらこうとしているのは、紛うことない冒涜だった。
 指が震えてしかるべきだし、

「お……、おお……」

 裾が上がるにつれて明らかとなっていく、ベージュのストッキングに包まれた脚肌を目の当たりにしただけで、不様な呻きが漏れてしまうのもまた、ごく当然のことだった。

 天幕は目の高さまで捲りおおせた。あと少し両手を上げれば、納められている御神体と対面することができる。

 もちろん、人の下半身がどのような形状をしているのかは承知している。だからこれから、どのような光景が目に飛び込んでくることになるかも、よくわかっているつもりだ。

 にもかかわらず、息苦しさに胸が喘いだ。

「み……、みみ、見ますよ?」

 緊張で喉がからみつき、気色悪い、粘着質な声音となってしまった。
 両側に垂らされた指先がピクリと動く。

 この人をしても、この誰に対しても誇ることができよう美脚をもってしても、スカートを押さえつけたい衝動に耐えている……。
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