この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
姦譎の華
第4章 4
「ごめんなさい、このあと用事があるの」

 愛紗実の顔を見ずに固辞をした。普段、ボタンは留めないことの方が多いが、備えられている全てを結んでしまう。

「もしかして室長とデートですか」
「シンガポールにいるのに?」
「ですよね。なので海外出張でさびしくて、そろそろフェイスタイムとか」
「行きましょうか」

 最終的には無視をして、バッグを肩にかけると、

「……手。洗わなくていいんですか?」

 自分もコートを着終えた愛紗実が、レストルームの案内プレートを指さした。
 肩をすくめて首を振る。

「へえ、やさしいんですね。……そりゃモテるはずだ」

 幹部が多英には握手を求めて来たのに、愛紗実には求めなかったことを言っているのだ。

 飲んでいるときも、喋っているのは愛紗実なのに、幹部の興味が完全にもう一人の女の方へ向いていたことには、彼女自身も気づいていたはずだった。木組みの椅子に座る脚がカウンターの陰で左右二組並んだことだろうが、愛紗実のスカート丈のほうが短いにもかかわらず、目線が向けられた回数もまた、明らかに少なかった。

 いわゆるスケベオヤジが相手なのに、食指も鑑賞も握手もなかったことが面白くないのだろうか。やはり、こんな子と飲みに行ったって何一ついいことはない。

「それじゃ。藤枝さんがいてくれて本当、助かったわ」

 挨拶を聞かず、一人でタクシーへと乗り込む。

「新宿西口まで」
「首都高からでよろしいですか?」
「……。どうぞ」

 タクシーがホテルのロータリーを巡ると、レインボーブリッジが窓を流れた。それからテレビ局、そして大観覧車。

 観覧車は夜闇の中に、くるりと時計回りの模様を浮かばせた。手を振っているように見える。おつかれさま? 違う。激励している。

 そんな能天気な色合いで見送られても、ひとつも嬉しくはなかった。まだ、一仕事残っている。愛紗実が飲みに誘ってきたとき、付き合えばこの仕事から逃れられるかも、と一瞬気持ちが揺らいだくらい、気が乗らない仕事だった。
/278ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ