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姦譎の華
第7章 7
「ね、ご飯、作ろうと思うんだけど」
「ん……、作ったら?」
「でもね、材料が何もないんだ。……だからね、お金……」

 金という単語を出す時、最も緊張した。

 母は黙っていた。
 もう一度、腹が鳴る。

「ね、ママ」
「もお、うるさいなあ……」

 面倒そうに言うと、寝転んだまま腕だけを伸ばし、手探りで頭上のバッグを捕まえる。タオルの隙間から手元を確認したのだろう、撒かれた札の種類は選ばれていた。

「ありがとう。……あとね、給食のお金が、入ってないんだって」
「……」
「ママ」
「もおっ! 一回で言いなさいよ。だいたいそんなの払わなくたって食べさせてくれるわ。生徒のけものにしたら困るのは先生の方なんだから」
「そんなことできないよ」

 持ち物、毎日着ている服、担任にこっそり呼び出され、保護者宛の封筒を渡されている様子──家庭の状況は、嫌でも同級生たちへ伝わる。

 なんだかあの子臭い。風呂だけは毎日入っているのに、思いつきで誰かが口にすると、まるでそれが事実かのように流布していた。もう、些細な違いだと自分に言い聞かせることはできなかった。授業で指されたとき以外言葉を発しないこともある学校に通っているのは、どれだけ同級生が距離を取ろうが配膳してもらえる給食があるからだ。空腹を乗り越える土日の方が、よほど憂鬱だった。そんな理由で学校へ通っている子なんて、他にはいない。

「いつか払っとくから。ちょっと寝たいの。静かにしてて」

 やっぱり具合が悪かったのか。

 申し訳なくなって、それ以上金の話はせず、とりあえずもらった額で買い物に行こうと、ランドセルを置いて小銭入れを探していた。

「もうやだやだ……、ほんとやだ。ブスって」

 母が呟いた。

 タオルがかかっているから顔つきはわからなかったし、語尾が小さくなっていったから寝言のように聞こえなくもなかった。
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