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堕ちる
第2章 エピローグ
微かに人の気配がするが、気にならなかった。

「昔のことを言われると恥ずかしいけど、でも昔の私がいたから、今こうして、真一のそばにいられるんだよね」

「そうかもしれないですね」

僕は、久しぶりに昔の莉菜さんを思い出した。

あの時、勉強を教わりたいという口実で、莉菜さんに半分拉致されるようにして家に連れて行かれ、そこで、莉菜さんに抱かれた。

あの時、莉菜さんは僕のことを好きだと言ったが、それが嘘であることは僕にはわかっていた。

嘘であるならば、なぜ莉菜さんが僕なんかにと考えると、答えは一つだった。

僕の父親が日本で有数の大企業の社長であり、日本で有数の資産家だったからだ。

周りには秘密にしていのだが、莉菜さんは、どこからかその情報を掴んだのだ。

そのことを、僕は抱かれている最中からうすうす気づいていた。

気づいていたが、気づいていないフリをし続けた。

そんなことより、莉菜さんからもたらされる快楽を欲したのだ。

最初の日から一週間あまり、毎日毎日莉菜さんと抱き合い……

僕は、すっかり堕ちていた。

下手をすると、僕の代で会社もその他の資産も、すべて乗っ取られるかもしれない。

そんな風にも考えた。

しかし、そこから莉菜さんの様子が変わって行った。

本気で勉強に取り組むようになり、派手だった容姿が、落ち着いた清楚なものに変わり、性格もおしとやかで、でも可愛いげのある僕好みのものに変わった。

元々の莉菜さんと比べると、真逆といっていいような人格に変貌を遂げる莉菜さんを、僕も最初は、周りと同じように驚きの目で見ていた。

でも、そうなってからも、莉菜さんは週に二・三度は僕とのセックスを求め……

そうしている内に、僕は気づいた。

莉菜さんもまた、堕ちているのだと。

莉菜さんは元々頭のできはよかったらしく、真面目に勉強に取り組むと、めきめきと学力を身につけ、三年生の冬――

さすがに東大は無理だったが、それでも一流と呼べる国立の女子大学に合格した。

僕もすでに東大への合格が決まっていて、そして莉菜さんと関わることで、少しだけ自分に自信を持てるようになっていた。
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