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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「笙子さん、父の紘一郎です」
篤子の隣に座っていた白髪混じりの優しげな目をした紳士が律儀に頭を下げた。
…事前に篤子から話を聞いていたのか、驚く表情はなかった。
「初めまして、笙子さん。
…うちは商家で人もようけおる。子ども達もちいそうてかしましいから、あんたも気にせんで気楽に暮らしてや」
言葉少なに挨拶すると、また淡々と食事を進めた。
笙子は慌てて頭を下げた。
「…初めまして。笙子です。…あの…こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「お父さんは恥ずかしがり屋やさかい、こないなお姫様みたいな別嬪さんの前ではよう話せへんねん」
篤子が陽気に笑った。
「ほな、私が皆を紹介するわ。
こっちが長男の紘希や」
「よろしゅうお願いしますわ。笙子さん。
…いやあ、お母様から聞いていたけど、ほんまに目が飛び出てまうような綺麗な方やなあ。
ご飯、詰まりそうになったわ」
明るく笑うのは恰幅の良い如何にも大店の若旦那然した男だ。
「ほんで隣が道子さん。紘希の嫁さんや」
道子と呼ばれた兄嫁は、にこにこと相好を崩しながら挨拶した。
「初めまして。
…朝からバタバタしたとこ見せてしもうてえらいすんまへんなあ。うちとこは三つ子に…あ、肇に穫に駿いいますねん。
それから昨年生まれた下の子…茜もおって、毎日てんやわんやですねん。
…せやから気ぃ使わんと、呑気に構えてつかあさいね」

笙子はほっと胸を撫で下ろした。
人数の多さに最初は驚いたが、皆気さくな良い人ばかりのようだ。
「さあ、笙子さんも朝餉を食べよし。
ミツ、笙子さんのお膳を千紘の前に持ってきよし」
「はい!ご寮さん!」
ミツが元気に返事をして、厨に走り出す。

千紘が優しく笙子の手を取った。
「さあ、笙子さん」
「…はい…」
手を取られ、はにかみながら千紘の後に続く笙子を三つ子達はうっとりと眺めていた。
「…綺麗なお嫁様やなあ…」
「色が白うて、白雪姫みたいやなあ…」
「ほんまやな…。お母ちゃんと大違いやな…」
のんびり屋の駿もにこにこ笑いながら頷いた。

道子がじろりと睨んだ。
「…あんた達、なんか言うたか?
いらんこと言うたら、今日はおやつなしやで」

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