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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「…貴方達は…真面目すぎるのね…」
ため息混じりに伽倻子が呟いた。

貌を上げると、伽倻子は優しい…母親のような眼差しで笙子を見つめていた。
「笙子様、貴女のお苦しみはよく分かるわ。
お辛い気持ちも…同じ女性として分かるつもり。
…でもね、このままそのお気持ちにお一人で閉じこもっていても何も生まれないわ。
…貴女が変わらなくては、いけないのだと思うの」
伽倻子の思わぬ言葉に眼を見張る。
「私が…?」
「ええ。貴女がご自分で一歩踏み出さなくては…。
千紘さんに求められるのではなく、貴女が千紘さんを求めるのよ。
笙子様ご自身で、千紘さんの胸に飛び込むの。
笙子様がご自分で、人生を選択するのよ。
もっとご自分に自信をお持ちになって。
そうすれば、きっと貴方達は真のご夫婦になれるわ」

…私が…自分自身で、千紘さんを求める?
…私が…自分自身で、人生を選ぶ?

そう言えば、考えても見なかった…。
私は、千紘さんに求められることしか考えていなかった。
千紘さんに守って貰って、愛して貰うことしか考えていなかった。

…私が変われば、人生は変わるのかしら…。
…忌まわしい悪夢を追い払い、私が自分の足で千紘さんの胸に飛び込むことができたのなら…!

笙子の想いを読み取ったかのように、伽倻子は笙子の手を握り、励ますように頷いた。
「ええ、そうよ。欲しいものは欲しいと自分で声を上げなくてはだめ。
…そうでないと、千紘さんを誰かに取られてしまうかもしれなくてよ?
千紘さんは滅多にいないような美男子だし、優秀なドクターだし、お優しいし…それはそれは素敵な殿方なのですからね…」
最後は、どこか艶めいた…それでいて切ないような色の瞳で笑った。
「…伽倻子様…もしかして…」
「さあ、どうかしらね。
…秘すれば花…と言うでしょう?」
はぐらかされて、笙子の胸は少し焦燥感に襲われる。

「さあ、ぼやぼやしていないで。なさるべきことはひとつだわ」
伽倻子の温かく力強い眼差しに頷き、長椅子から立ち上がる。

…少し行きかけて立ち止まり、振り返る。
笙子は心を決めて、口を開く。

「…あの…。私も伽倻子様にお話があります。
…環さんのことです。
実は、環さんは…」



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