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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「一ノ瀬様、この度は誠におめでとうございます」
挨拶を受けた笙子の両親は、感無量な表情を浮かべ挨拶を返した。
「…本当に…伽倻子様がいらっしゃらなければ、笙子は岩倉様と巡り会うことも出来ませんでした。
娘に成り代わりまして、改めて御礼申し上げます」

夫人は早くも涙を浮かべていた。

伽倻子は、この実に懐の深い両親に感銘を受けていた。
孤児の…しかも忌まわしい事件の被害者の少女を引き取り、我が子同然に深い愛を注ぐなど、なかなかできることではないからだ。

それを伝えると、両親は異口同音で答えた。
「…私たちは、あの子を一目見た瞬間に心を捕らえられてしまったのです。
笙子は、貧しいなりをして傷つき、怯えていました。
…けれど、息を飲むほどに美しかったのです。
神様が地上に遣わせた奇跡の天使のように…。
…ですから、私たちはあの子を育てさせていただいたようなものです。
あの子が健やかに、更に美しく成長するのを目の当たりにできたのは、無上の喜びでした」

伽倻子は笙子に想いを馳せる。
美しく可憐で淑やかで、谷間に咲く白百合のように穢れのない少女…。
けれど、ふとした拍子に見せる影のある表情は、未だ彼女自身も知ることのない過去が齎すものなのかもしれない。

…千紘さんはきっとそれも含めて…いいえ、だからこそ笙子さんを愛したのだわ…。
光り輝く美しさと対照的な淫靡な影…。
その闇の濃さが笙子さんをより一層煌めかせ、見るひとの心を鷲掴みにするのだと…。

かつて、自分を熱い眼差しで見つめていた少年の面差しを思い起こしながら、伽倻子は微かな惜別の痛みを感じる。


…伽倻ちゃん、お嫁様にいかんといて…。
僕、伽倻ちゃんが…

ちぃちゃん、うちのこと忘れんといてなあ。
うちもちぃちゃんのこと、絶対忘れへん。
ずうっとずうっと、覚えておくさかいになあ…。

千紘はとうに忘れてしまっただろう。
淡い口づけと抱擁…。
枝垂れ桜の花弁が舞い散る春…。
すべては、伽倻子の想い出の中だ…。





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