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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
…翌朝、笙子が目覚めた時は隣の褥はすでに空であった。
…千紘さん…もうお起きになったのかしら。
笙子は慌てて、辺りを見渡す。

同時に、志津が寝室にそっと入って来て声をかけた。
「旦那様は先にお目覚めになりましたよ。
お嬢様はお疲れだろうから、ゆっくり寝かせて差し上げるようにと、仰っておいででした。
…まあ、本当になんてお優しい旦那様でしょう。
お嬢様はお幸せですね」
「…ええ…、本当に…」
…昨夜の甘い口づけを思い出す。
ひたすらに笙子を甘やかし、蕩かすような砂糖菓子のような口づけだった。

志津は笙子の着替えを手伝いながら、背後からそっと尋ねた。
「…いかがでございましたか?お嬢様。…昨夜の首尾は…。
あのご様子ですと、旦那様はそれはそれはお嬢様をお大切にされたことでしょう…」

志津が寄越したあの浮世絵の艶やかな…だが赤裸々に生々しく絡み合う男女の絵姿が脳裏に過ぎる。

「…貴女が私に身も心も全てを委ねたくなるまで、待ちます…」
岩倉のこの上なく優しい言葉を思い返す。
胸がずきりと痛み…思わず白く透き通るような頸をうな垂れた。

それを、初夜を体験した笙子の羞恥と取り違えた志津は満面の笑みを浮かべた。
「…おめでとうございます。お嬢様。
本当に良うございました。お嬢様はまだ稚くいらっしゃいますから、志津は一晩中心配でございましたよ」

…笙子が一ノ瀬家に引き取られた時からずっと身の廻りの世話をしてくれている女中頭の志津だが、孤児院で起こった忌まわしい事件までは知らない。
あの事件は一ノ瀬の両親のみが知っているのだ。

「…ありがとう…志津…」
小さな声で返す笙子に明るく声をかけ、支度の続きを促す。
「さあ、少しお急ぎになられてくださいまし。
…こちらの皆様が大広間でお待ちになっていらっしゃいますよ」

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