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セイドレイ【完結】
第24章 性夜の鐘

「あ、あの…お腹の赤ちゃん…今、どのくらいですか…?」

「あぁ…私は今7ヶ月だよ~。最近お腹が張ってきちゃって…だんだん動くのが辛くなっちゃってね」

「7ヶ月…!こんなにおっきくなるんですね…」

ふと、妊婦は亜美が手に持っている本に目をやる。

『はじめての妊娠・出産』

その表紙には、そう書かれていた。

「──その本…あのさ、嫌なら答えなくていいけど…もしかしてあなた、妊娠してるの?」

「あっ…これはその…わ、私じゃなくて、私の友だちが妊娠しちゃって…今7週目?くらいなんですけど…つわりがどうとか言ってて…」

亜美は咄嗟に嘘をついた。

「そっか、お友だちの話なのね。7週目かぁ…まだ妊娠初期だね~。私はつわり、全然なかったんだよね」

「そうなんですか?やっぱり…個人差があるものなんでしょうか?」

「うんうん、あるよ~。個人差もあるし、1人目は辛かったけど、2人目は楽~とか、そういうのもあるよ~」

「やっぱそうなんだ…ごめんなさい!突然話しかけちゃって…元気な赤ちゃん産んでくださいね」

「あ、うん…ありがとう。…お友だちも、無事に産まれるといいね」

「はいっ…!ありがとうございます」

亜美は妊婦に礼を言うと、読みかけた本をもとに戻し、そそくさとその場を立ち去った。

亜美が妊娠するのはこれで二度目…になるはずなのだが、一度目はわずか6週で流れてしまった。
現在は7週目ということで前回を超えたことにはなるのだが──亜美は正直なところ、一度目の妊娠のときの自分の体調をまったく覚えていなかった。

貴之の母の紗枝や、健一から "つわり" のことを聞かれたが、自覚症状がないため、そのことが気がかりだったのだ。
雅彦に聞くのが手っ取り早いのだが、どうせ「気にするな」と言うだけでまともに取り合ってはくれないだろう。


(あの妊婦さん…お腹おっきかったな…もし私もこのままだとそのうちあんなふうになるなんて…全然信じられない──)


亜美は無意識に下腹部を撫でながら、店を出て帰路についた。


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