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セイドレイ【完結】
第26章 形勢
実は、新堂は田中に、亜美の監禁生活に協力する見返りとして、田中を学園の用務員として採用することを約束していた。

薄給でブラック企業に勤める田中にとって、一見それは思ってもみない幸運のように思えた。

しかし現実は、新堂に脅され逆らえなかったというのが正しいだろう。

この日を最後に田中は現職を辞めた。
元々辞めたいと思っていた会社だ。それについては未練は無い。
いきなり退職願を出したため相当嫌味を言われたが、引き止められることも無かった。

明日からはこの部屋で、亜美の監視と身の回りの世話をすることが田中の仕事となる。

その間も用務員としての給与は支払われ、いずれ亜美の監禁を解く日が来たら、実際に用務員として働くーー、これが新堂が提示した条件だった。

もちろん田中も、こんな犯罪に加担することに躊躇しなかったわけではないが、新堂の口車に乗せられ、挙句監禁の手助けをしてしまった。

もう後戻りは出来なかった。


「…いつまで、ここでの生活はいつまで続くんでしょうか」

全てを諦めたかのような力ない声で、亜美が新堂に問う。

「…そうだねぇ。私が勘違いでないという『証明』をするため…つまり、子を孕むまでは最低ここで生活してもらおうか。あぁ…それよりもまずは、君が居なくなったことを知った雅彦の顔を見てから、今後のことは考えるとするかね。ふふ、楽しみだよ」


亜美と雅彦による『密かなレジスタンス運動』よって一時は優勢かのように思えた形勢が、たった今新堂によって逆転してしまった。

新堂の恐ろしい所は、目的のためなら手段を選ばないことではない。

彼にとって目的というのはあくまでただの理由に過ぎず、そこに関わる人間を弄ぶことこそが何よりの快感なのだ。


「…この世にはね、持つ者と持たざる者、その二つしか存在しない。後者は前者の手のひらの上で転がされる運命なんだよ。それが滑稽であればあるほど美しい。それが嫌なら…君も何かを持ってみたまえ。さて…雅彦よ。お手並み拝見と言ったところか。私を楽しませてくれよ」

新堂はそう言い残すと、田中の部屋から去って行った。

そして間もなく、残された二人の男の手が、無防備な亜美のカラダへと伸びて行ったーー。

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