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セイドレイ【完結】
第29章 ぬけがら
仮に亜美本人が持ち出したとして、その理由は一体何なのだろうか。
今まで頑なにスマホを自宅に持ち込もうとしなかったことを考えると、何か特別な事情があるに違いない。

また、全く別の何者かが持ち出していたとしたら、更に不可解だ。

あの場所にスマホがあることを知る人物が他にも居た?

となると、亜美が連れ去られたことと関係があるのか?

いずれにせよ、このタイミングでスマホが無くなるというのは、あまりに出来すぎている。

悪い予感を覚えてしまうのは当然だった。



唯一とも言える手がかりを失った貴之は、重い足取りでトメの屋敷を後にした。

毎日のように亜美と二人で歩いたこの通学路が、まるで違う世界の景色に見える。

遠目に見える、武田クリニックの看板。

貴之はそれを、キッと睨みつけた。

武田家の男達は、一体亜美に何をしでかしていたのだろうか。

両親を失った亜美を引き取り、親族であるにも関わらずセックスに及んでいた。

慎二は和姦だと主張していたが、そもそもそういう問題では無い。
健一に至っては、自分こそが亜美の婚約者だと言い張った。

そしてこの常軌を逸した家族の長である雅彦にも、恐らく何か秘密があるに違いないと貴之は思った。

更に、武田家に何かと干渉してくる理事長の新堂。
亜美を留学したことにしてまで隠したい事実とは何なのだろうか。

亜美が抱えていたものは、一体何なのだろう。

全てが謎に包まれたまま、当の亜美本人の行方は分からない。
スマホさえ同時に姿を消してしまった。

貴之は拳を握り締め、歯を食いしばった。

悔しくて悔しくて、カラダの震えが止まらなかった。
行き場の無い怒りが込み上げてくる。

あの日、慎二の元に戻ろうとする亜美を、無理矢理にでも引き止めていれば、こんなことにはならずに済んだはず。

何故あの時、この手を離してしまったのだろうーー。



そんな折り、貴之のスマホに着信が入る。

電話の主は、父親からだった。


「…もしもし、俺だけど…ん?いや、ちょっとジョギングに……え?分かった。今すぐ帰るよ」


すぐに帰って来い、という父親との通話を終えると、貴之は駆け足で自宅へ向かった。
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