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セイドレイ【完結】
第10章 胎動

それから数日が過ぎた。

終わってしまえば、実に呆気ないものだった。
亜美の腹に宿った生命は、わずか6週という期間でその短い一生を終えた。

雅彦による処置が終わり、予後はしばらく安静にする必要があるため、亜美はつかの間の休息を与えられていた。

とはいえ、それは自由などとはほど遠い。
亜美は、あの地下室に隔離されていたのだ。

さすがの健一や慎二も、このときばかりは手を出してこなかった。

勝手なものだと思った。
そして、嵐の前の静けさのような、嫌な予感でもあった。

雅彦がそれを禁じているのか、まもなく始まるこの地下室での「サービス」のために暇を出されているのかは分からなかったが、亜美は1日の大半をこの地下室のベッドの上で過ごしていた。

しかしそのおかげで、考える時間だけはありあまるほどにあった。

陵辱のすえに、望まない子を身ごもった。
その父親が誰であったかすら分からない。

そして今、その生命はもう、亜美の腹の中には居ない。

亜美は不本意ながらも、宿してしまったその生命に思いを馳せてしまう。

下腹部に猛烈な痛みが走ったあのとき。
ほんの一瞬でも "助かってほしい" と願ってしまった。

だが、こうも思う。
どのみち、早かれ遅かれ堕胎することになっていた。
そうなれば、きっと今以上の失意と罪悪感に苛まれていたことには違いない、と。

では果たして、その生命にはなんの意味があったのだろうか。
男たちの歪んだ欲望のためだけに作られた、その生命とは。

きっと、お腹の子は自分の意思で成長することを拒んだのかもしれない──亜美はそう思うも、感情の着地点などどこを探してもなかった。

薄暗い地下室で天井を眺めていると、わけもなく涙がこぼれてくる。
これまで押し殺していた感情が、一気にあふれだしてくる──。

──あの男達は、悪魔だ。

人の形をした、人ではないと思った。
人でなしだ。

そしてこれからまた、こんな望まない妊娠と中絶を繰り返すのか。
繰り返すうちに、いつかそれすら慣れてしまうのか──。

亜美は自分が怖かった。

いっそ、自分など死んでしまった方がいいのではと思えた。

現に亜美に宿った生命は、無責任に作られ、産声を上げることもなくその短い一生を終えたのだ。


(なのに私は生きている──)


亜美にはそれが、とても罪深いことに思えた。

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