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我が運命は君の手にあり
第8章 第八章
冴子はバッグから鏡を取り出し、紅い口紅をたっぶりとのせた。遼の知らない女になりたかった。遼を知らない女でいたかった。

「ふふっ、いい子だ」

旦那様は私の運命を握っている。逆らうことなど出来ない。
コンビニの前を通り過ぎた時、役に立たない子宮が疼いた。


冴子にとって、子に恵まれない身体であることは不運でも何でもなかった。
「お母さん」と、呼んだ事のない人間が母親になれるわけがない。母に捨てられた私が、子に愛情を注げる訳がない。平気で我が子を捨てるだろう。

以前、付き合っていた男に検査を勧められ、その結果を知った時には肩の荷が下りた。だが、男は去り、別の女と結婚して子供を儲けた。それ以来、冴子は結婚も恋愛も諦めた。

余裕が出来たからだ、と彼女は思った。祖母の事でも仕事の面でも余裕ができた。だから周囲を見渡せるようになり、忘れていた恋に落ちた。なのに愛する人を裏切っている。いや、この愛はきっと錯覚だ。
彼はいつか、あれは気の迷いだったと笑うだろう。

「旦那様」
「ん?」
「私を、離さないでください」
「ふふっ、初めて聞くね。あぁ、君さえよければ」

冴子は遼を裏切り続ける事で、彼への気持ちを引き剥がそうとした。
熱に浮かされているだけだ、熱はやがて冷める、そう思っていた。








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