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君に熱視線゚
第52章 君に熱視線゚〜愛の鈍行列車〜


その途端にダンッ──!と強い音が鳴った。

叫んだ苗が背を預けていた向こうから壁を強く殴ったような音が響く──

晴樹はその音に顔を上げて動きを止めた。

「──……」


間違いなく悟の仕業だ。

晴樹は壁の向こうを睨み据え、苗の腕を掴む。

「ベッド行くぞ──」

「え…えっ!?…止めるんじゃないのっ!?」

「止めるわけないだろバカッ…今ので尚更燃えた…」

ええっ…

苗は声も出せず、寝室に引きずられていく──

その家で寝室のドアが強く閉められた音だけが悟の耳に豪快に響いていた。

「………っ」

悟は玄関の壁に蹴りを入れたまま口を歪めた。

「くそっ…」

何かを堪えたように低い声が漏れる。

「……横取りしたらされ返されるって教えてやるっ…」

壁を睨んだ悟の口から苦し気に掠れた声が吐かれ、悟は部屋に隠るとベッドに鞄を投げつけていた……


これからはやっと苗の傍に居られる──

離れて過ごした時間。

我慢して過ごした時間。


それは晴樹が耐えた時間とは比べ物にならない──


婚約したからなんだ?
もう今さらだ。

いくらでも時間掛けて取り戻してやる──

「…っ…苗…」

一人、部屋で佇むと悟は歯を食い縛り苗の名前を絞るように声に出していた。

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