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自由という欠落
第6章 もつれていく



 呼び込みに繰り出す店員達は、アパレル販売員も顔負けだろうほど饒舌だ。


 今しがた諧謔の的になったゆきは、確かに、長身のしよりと並んで歩くと、人形めいた容姿がより際立つ。陶磁の肌に小さな顔、天使の輪を浮かべた長い黒髪。薄着の人間が大半を占める中、七部袖の白いチュニックに襞のたっぷりとられたネイビーのロングスカートというコーディネイトも、店員の目を惹いたのか。


 しよりとじゃれ合いながら唇を尖らせる上級生は楽しげで、まひるの同級生らも目を細めている。



「お前も行けよ。仲良いんだろ?」

「無理無理っ。君ら、あの中に入る勇気あるか?」

「あー、補導されるな」


 三回生の最後尾に歩く花園達が、互いの肘を小突いている。

 花園もゆき達と付き合いが長い。

 学内でもすれ違った学生らがうっかり振り返るようなしよりと、ファッション誌の中でロリィタ服に身を包んで微笑んでいても得心のいく容姿のゆき。彼女らと懇ろな花園は、ことあるごとに男子部員らの親しいからかいを受けていた。



 こうした雰囲気が、苦手だ。苦手だった。


 まひるは中学校にいた時分、男子生徒らとの交流を必要以上に持たなかった。二学年に上がった春以降は、無関心の対象だった彼らに、嫌悪さえいだくようになっていた。実際、嫌悪という生やさしいものではなかった。今も変わらない。

 演劇部にいる男子学生は、かくいう活動の盛んな団体に所属出来ている所以もあって、好んだ分野に没頭している傾向が強い。どこからともなく耳にするような男としての不遜もなく、他意なく友人らと戯れて、年相応の楽しみを謳歌している。まひるも彼らと話していて、想像以上に不快を覚えたことはない。



 それでも、彼らを心底、友人と呼べる日は迎えられない。



 愛など信じていない。そうした否定を陽子の問いに返したまひるでも、愛を見出した唯一の人。


 その唯一の彼女との途切れそうな繋がりは、今となっては、もう男という概念を憎悪するところにのみ残されている。



 けだし傍目からすれば筋の違った私怨でも、独善的な遺恨でも、それがまひるの、彼女への至誠だ。
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