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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第6章  美里晶 


「たとえ、そうでも後戻りしたくないの。希はさっきノンケだって、あっさり言ってくれたけど。実際に自分がどうなのか、ずっと悩んでいたんだから。でも均とつき合ってみて、わかったことがある」

「なにをどう、わかった?」

「私はずっと、流されてきたんだって」

「……」

「ごめん」

「なんで、謝るわけ。仮にそうなら、謝るのはこっちなんでしょ」

「そうじゃない。いつまでもはっきりできない、私がいけなかった」

 私は言って、俯いた。暫く沈黙が続いた後。

「やっぱり、晶はいいなあ。私のしってる誰よりも健気で情が深い。だから、私は晶に甘えにきたんだ」

「希?」

 ふっと希の様子が変わったのが、わかった。静かに窓の外を見つめ、往来する人々の姿を視線で追う。

「こうして眺めていると、誰もなんの疑問もなく生きているように見えるから、なんだか不思議なんだ。だけど他人からしたら、こうしてコーヒーを飲んでる私も、そう見えるんだよね、きっと」

 彼女がなにを言わんとしているのか、まるでわからなかった。でも、悪い予感だけが、数秒ごとにふくらんでゆく。

 私から「希――」と肩に手を置こうとした刹那、私に顔を向け彼女は告げた。

「私ね――」

「――!?」

 希の告白は、衝撃の波となって、胸の中までに押し寄せていた。

 私をじっと見つめた瞳が、ゆらゆらと揺れる。涙がこぼれそうになるのを誤魔化すように、希はさっと目じりを指先で擦った。

 その仕草を見て、どこか懐かしい気持ちが去来する。

「ほんと、変わってないね」

 希の震える手に、自らの手をそっと重ねた。

「だってさ。肝心なことは、いつも後回しなんだから」

「照れ屋だからね」

 この期におよんで、希は笑い。それからゆっくりと、その笑みを消す。

 彼女の唇が震えた。

「先に言いなさいよ。そんな顔するくらいなら」

「晶……」

「詳しく話して」

 私は再会後、はじめて柔らかな微笑を希に向けた。

 でも、この時はまだ、どうしようと決めていたわけではない。




【第六章・終わり】

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