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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章 僕

だけど――僕の危惧を先回りするかのように、加賀見がこう話を続けた。
「浜谷陸也――真打のクズは、あの男の方だよ」
その名前が吐き出されると、事務所内の空気がぴりぴりと危うさを孕んだように感じられた。僕はその空気に晒された、岬の身を案じた。
「闇雲に不安を煽るだけなら、もう――」
「そうじゃない」
「……?」
訝しく眺めたこちらの視線を受け止め、加賀見は無気力な表情で話した。
「人間ってのは、成功するほど人格が立派になるのが普通らしい。少なくとも心に余裕があるから、そうでない者に対して大らかに振舞っていられる。だが、そうでない例外というものがあってな。あの男は、その代表のような男だろう。弱者を踏みにじることに、なんら躊躇がない。いや、むしろ好んで踏みにじる。テレビに映らない裏の顔は、まさにクズだよ。あやかも、しるようにな」
加賀見の態度を軽薄と感じて、かっと頭に血がのぼった。
「自分のしたことを棚に上げて――そんな男を相手に、無責任に彼女をけしかけるな!」
「まあ、そう怒るな。さっきも言ったように、俺は小物なんだ。今更、怒りをぶつけたところで、なんの価値もないさ」
「アンタは……一体なにが言いたいんだ?」
「だからさぁ。これだけじゃ終わりに、できないだろうと思ったのさ」
加賀見はよろよろと立ち上がると、デスクの引き出しからなにかを取り出し、それをこちらに向けて投げる。
ぱさっと音を立てて、床に落ちたのは小さなメモ帳だった。

