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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第9章   僕  


 開いていたドアの死角になる位置。そこに身を小さくして蹲っていたので、その人物の存在に――僕は、気づくのが遅れる。

「――!?」

 いつから、そこに? ずっと、いたのか?

 闇の中で息をひそめ、〝彼〟はこのタイミングを見計らっていた。

 その人影が低い体制のまま、岬の方に迫ってきたのだ。

「――岬!」

 咄嗟に、岬の身体を突き飛ばすのと、ほぼ同時だった。

 ――ズリュッ!

 僕の腹部で、その不快な音が鳴った。

「え……?」

 なにが起こったのかを確かめようと、腹部を見下ろすと。

「ハ、ハハ……」

 僕の身体にすがるようにしながら、〝彼〟は笑っていた。

 アパートの脇の街灯が照らした、その顔は無精髭だらけで目の焦点も定まらなくて、まるで面影はなかったけれど。

 僕はそれが、誰なのかを倒れる前に理解した。

「均くん!」

 岬の叫び声が、深夜のしじまを切り裂く中――。

 腹から血を流しながら、僕は最後の願いを口にする。

「みさき……逃げて」

 そうして、意識は遠のいた。




【第九章・終わり】

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