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不器用な夫
第3章 学校



果歩は僕の手の甲に指先を曲げ擦るようにして撫でて来る。


「からかってなんかいないわ。」


少し甘えるように僕に体重を乗せて来る。


「三浦君…、何かあったのか?」


教師として僕は果歩に聞く。


「何もないですよ。でも時々思うんです。初めては先生みたいな人がいいなって…。」


果歩が少し身体を震わせる。

泣きたいのを我慢してるようにも見える。

三浦家の財政難の噂は耳にしてる。

果歩の父親が事業に失敗した。

その立て直しに果歩は犠牲になる覚悟を決めなければならないのだろう。

僕はそっと果歩の肩を持ち果歩を僕から引き離す。


「残念だけど先生は妻帯者だ。もし、三浦君に相談があるなら国松の本家に行きなさい。父には三浦君の事を言っておくから。」


僕はそうやって果歩から逃げ出す事を考える。

僕は不器用で臆病だから果歩の為にと熱血になれる教師じゃない。

自分の事だけでも精一杯のダメな男は果歩の気持ちを楽にしてやる事ぐらいしか出来ない。


「先生ってもう結婚してたの?」

「三浦君なら国松家の婚姻を知ってるんだろ?」


国松家の結婚は表沙汰にならない。


「なんだ…、そうなんだ…。」


果歩は何かを諦めたようにチョークを握ると教員室から出て行く。

ただ果歩に焦った恋愛をして欲しくないと思う。

良家のお嬢様にありがちな転落。

顔も知らない男の元へ嫁ぐ。

それが幸せに繋がれば良いが家の犠牲になる場合はなかなか幸せにほど遠い縁談を受け入れる事になるパターンも少なくはない。

年頃の若い女の子が40も過ぎた男のところへ嫁ぐ事もある。

わがままに育った男から暴力を受ける事もある。

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