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不器用な夫
第30章 おかえり
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「大きなお世話よっ!」
僕に怒りを感じた絵里美がやっと僕の前から姿を消してくれる。
君は寂しくないか?
海の向こうの妻と会話する。
『寂しいとか言うくらいなら、勝手にハコを茅野に帰さないで…。』
そう言って怒られると思うから弱気になる自分を反省する。
「ごめんなさい…。」
海に向かって謝る。
僕は妻に逆らえない夫です。
毎日が必死じゃないとだらしなくいい加減な生活に堕落する駄目な夫のままだった。
冬が来て春が来る…。
卒業生が出て行き新入生が入る。
ブカブカのセーラー服を着た小さな少女を見るたびに僕はハコの姿を探してしまう。
長い髪を靡かせてケタケタと笑う少女を探す。
大きな瞳にふっくらとした唇を持つ少女。
僕の中で、いつまでもハコはセーラー服を着た少女のままだ。
すぐに口を尖らせて僕に泣きそうな顔を見せる少女に会いたいと思う。
今年もまた僕は1年生の担任だ。
「ねえ、先生が学生と結婚してたって噂になった先生でしょ?」
今年は好奇心だけで僕を見る学生が多い。
「学生と結婚したんじゃない。僕は僕の妻と結婚をしたんだ。」
「結婚したから妻になるんじゃないの?」
「僕の場合は妻と結婚をしたんだよ。」
「じゃあ、なんで捨てられたの?」
「言っとくけど捨てられてません。」
「でも別居中ですよね?」
「悪いが別居もしてません。僕の話はどうでもいいから授業を聞いてくれるかな?」
学生達の好奇心は始めの一週間程度で終わる。
後は平穏な日々が続く。
やっと狐うどんが作れるようになってた。
買い物も1回で済むようになってた。
自分の事はなんでも出来るようになり、不器用なだけの男は卒業だと自分に自信が持てる。
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