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不器用な夫
第5章 愛人



「来週は北村先生の奥様から招待を受けた劇を観に行く予定ですの、貴方からも北村先生の方にはお礼の言葉を伝えて下さいね。」


母が数少ない予定を父に話す。

母の交友関係は今や父が付き合いのある教授仲間の奥様ばかりでたまの招待があれば母は欠かすことなく出掛けてる。

元は名家の一人娘だったのに…。

嫁げばもう国松家の人間であり、その国松家の嫡子である僕を産んだ母は籠の鳥。

そんな母に同情すら見せず無表情なまま


「ああ…。」


とだけ父が返事を返す。

会話が弾む事がない食事を黙々と続ける家族。

慣れないハコだけがそわそわとして落ち着かない表情を浮かべてる。


「そういえば、要さん。葉子さんのご実家の新しいホテルの話は聞いたかしら?」


母がハコに気を使い僕にハコの話題を仕掛けて来る。


「新しいホテル?」


僕がハコに質問する。


「母がヨーロッパで古城を買ったんです。それをホテルに改装を済ませこの春にオープンしたばかりなんです。お義母様がヨーロッパにでも旅行をしたいと言われたので良ければハコがご予約の手配をしますとお話したの。」

「来週末にでも要さんの都合が良ければ一緒に行ってみない?」


母が弾んだ声を出す。

来週末は三連休…。

無理をすれば確かに行けなくはないが僕は苦笑いを母にする。


「残念ですが、その連休明けからハコは学校で試験ですよ。」

「試験くらい…。」

「ハコの夫として赤点は認めません。」


子供のように駄々を捏ねる母を僕は窘める。


「でも、その古城なら凄く素敵なブライダルが出来るって葉子さんが言ってるのよ…。」


母がその古城に行くのはハコの為なのだからとまだ僕にヨーロッパ旅行を強請って来る。


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