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不器用な夫
第5章 愛人



当事者である僕が諦めを見せれば父は満足気に食事を続けるだけだ。


「ごめんなさい…。」


食後のケーキをサロンで食べながらハコが僕に謝る。


「ハコが謝る事じゃない。」

「だけどお義母様をがっかりさせてしまったから…。」

「ヨーロッパの古城には夏休みにでも母を連れて行けばいいだけだ。」

「でも…。」

「ハコは試験の事だけ考えなさい。」

「うー…。」


試験の事を言われるとハコが一気に子供の顔へと戻り僕に噛み付く勢いで睨んで来る。

父は食事が終わると我が家から出て行った。

母は気分が悪いと早々に自分の部屋へと引き篭る。

ハコは自分が悪かったのかもと自分を責めるように母が置いていったケーキを食べ続ける。


「ほどほどにしろよ。」

「残したら…、またお義母様が悲しむかもしれない気がするんだもん。」


そう言ってケーキを頬張るハコの頬に僕はキスをしてハコの頭を撫でてやる。


「ハコは優しい子だ。」

「そんな事は…。」

「それだけで充分だよ。」


ハコは国松家に必要な優しさを持ち合わせた子だ。

それだけでも今の僕には有難いと感じる。

これ以上はハコを傷つけたくはない。

僕はその努力をしなければと自分に言い聞かせる。


「そろそろ帰ろう。」


ハコを連れて国松家の屋敷を出る。

公平は全く車の横から動かなったかのように来た時と同じように車のドアを開けて僕とハコを迎える。


「東とは…。」


少しは話をしたのかと公平に聞くつもりをやめた。

東はずっと父に寄り添ってるだけの執事だ。

公平よりも国松家という東と公平の間に親子の繋がりを聞くのは野暮な気がした。


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