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僕の美しいひと
第6章 すれ違う想い
郁未は胸を突かれたように、二の句が告げなかった。
「…原嶋さん…」
「産まれながらのやんごとない方は違いますね。
正直貴方が羨ましいですよ。
…綺麗で汚れなくて純潔で…。
欲しいものを欲しいと言わなくても手に入るのですからね…。
清良さんにあんなに愛されてもその幸福にも気づかない。
貴方は今までに、喉から手が出るほど欲しいものがありましたか?
それが手に入らなかったことがありましたか?
見苦しいまでに足掻いたことなど一度もないのでしょう?
だから私は貴方が大嫌いなのですよ」

…返す言葉が見つからない…。
欲しいものがあっても、手に入れられそうになかったら諦めてきた。
好きだと追い縋るより、笑って身を引いた。
相手のことを考えて…ではない。
…その方が、自分が傷つかなかったからだ。

「私は欲しいものはすべて足掻いて傷ついて闘って勝ち取ってきました。
そうしないと生きては来られなかったからです」

…そうなのだろう。
原嶋の強烈な存在感は、彼の今までの闘いの証しなのだろう。
…それに比べて自分は…。
忸怩たる思いに、拳を握りしめる。

言葉を返さない郁未に、冷ややかな眼差しをくれる。
「私は清良さんを必ず手に入れます。
彼女の過去など気にはしない。
寧ろ、共感します。
もし、清良さんの過去について侮辱するものがいたら、私が手段を選ばずに徹底的に叩きのめします。
容赦はしません」

尚も口を開かない郁未に、原嶋は些か失望したかのように雄々しい眉を上げ、ゆっくりと立ち上がった。
そうして、穏やかだが強い意志的な口調で宣言した。

「私はもう貴方に遠慮はいたしません。
清良さんにプロポーズします。
承諾していただくまで、諦めません。
ご機嫌よう、嵯峨様。
…美味しいお茶をご馳走様でした」






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