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僕の美しいひと
第7章 僕の美しいひと
教会の控え室で、高遠侯爵は温厚な表情と言葉の中に譲れない信念を滲ませながら語り始めた。

「君たちが愛し合っているのは良く分かった。
…けれど、やはりけじめと言うものがある。
私は父親として人として、今日原嶋くんとの結婚を取りやめた清良がすぐに君と結婚することを認めることはできない。
…それに…今日のことで清良の結婚はまだ早いのではないかと言う感情が芽生えたのだ」
いきなりの侯爵の言葉に、郁未は驚いた。
「え⁈…そ、それは…侯爵…」
「君のことは素晴らしい青年だと思う。
寧ろ、清良の夫としては原嶋くんより合うような気がしていたのだ。
君に不足は全くない」
「…それでは…」
おずおずと尋ねる。
「問題は清良だ」
「へ?あたし?」
高遠侯爵は穏やかに清良を諭し始めた。
「清良はまだまだ私たちの元で礼儀作法やマナー、そして花嫁修業をするべきではないかと思うのだよ。
…先ほどの言葉遣いは、さすがにどうも頂けないのでね」

…ああ…と、郁未は頭を抱えたいような気持ちになった。
咄嗟とは言え、清良のあの蓮っ葉でやんちゃな言葉遣いが露わになってしまったのは不味かった…。
確かにあれでは教育が不十分だと思われても仕方ない。

「清良はあと少し、私たちの元でしっかりと淑女の教育を施してゆきたいと思う」
有無を言わさぬ侯爵の言葉であった。

…高遠侯爵は端正な美男である。
その切れ長な瞳に強い力を込めて見つめられ、郁未は思わずたじたじとなった。
「…そうですわね。私も清良さんにはまだまだ沢山お教えしたいことがありますわ」
…元より清良の結婚には消極的だった伊津子は嬉しげに告げた。

「お父様、お母様。それはあんまりだわ」
ごねる清良に、侯爵は愛おしげに頬を撫でる。
「私もそこまで冷たい人間ではない。
郁未くんにはいつでも我が家に滞在して貰って構わない。清良もそうだ。二人の行き来は自由。
…結婚式は…そうだな…約一年後。
清良が誰から見ても完璧な淑女になってから。
…どうだね?悪くない条件ではないかね?」

…意外にしたたかなところを見せた高遠侯爵は、そう言うと爽やかに笑ったのだ。




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